TadaoYamaokaの開発日記

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【読書ノート】私たちはどう学んでいるのか――創発から見る認知の変化

書籍「私たちはどう学んでいるのか――創発から見る認知の変化」を読んだので内容をまとめる。
以下の内容は、ほとんどClaude3 Opusを使用して作成している。

要約

はじめに

人は日々の生活の中でさまざまな経験を重ね、認知的変化を遂げる。本書ではこうした認知的変化に働く無意識的なメカニズムを創発という観点から検討する。創発には多くの要素の存在、要素間の相互作用による揺らぎ、環境からの影響が重要な条件となる。能力、知識という概念の再検討を行った上で、練習による上達、発達、ひらめきの3つの認知的変化を取り上げ、それらが多様なリソース、揺らぎ、環境の中で創発されることを述べる。最後に、それらの知見をもとに教育についての検討を行う。

重要なポイント
  • 認知的変化に働く無意識的メカニズムを創発の観点から検討する
  • 創発には多様な要素、要素間の相互作用による揺らぎ、環境からの影響が重要
  • 能力と知識の概念を再検討し、練習、発達、ひらめきにおける創発を述べる
理解度確認質問

1. 本書で取り上げる認知的変化の3つの種類は何か。
2. 創発に重要な3つの条件とは何か。
3. 本書では最後に何についての検討を行うか。

第1章 能力という虚構

能力は人間が作り出した仮想の概念であり、「力」というメタファーによって理解されている。力は内在的で安定的なものと見なされているが、人間の認知には文脈依存性が見られ、内在性や安定性と矛盾する。同じ構造の問題でも文脈によって大きく異なる反応が現れることから、能力概念は認知的変化を考える上で不要であると言える。

重要なポイント
  • 能力は人間が作り出した仮想の概念であり、「力」というメタファーで理解される
  • 力は内在的で安定的と見なされるが、人間の認知には文脈依存性がある
  • 同じ構造の問題でも文脈によって反応が異なることから、能力概念は不要
理解度確認質問

1. 能力はどのようなメタファーで理解されているか。
2. 人間の認知にはどのような性質が見られるか。
3. なぜ能力概念は認知的変化を考える上で不要と言えるのか。

第2章 知識は構築される

知識は伝わるものではなく、主体が自らの認知的リソースと環境のリソースを用いて創発するものである。知識の構築には、経験から得られた認知的リソースと環境のリソースを利用したネットワーキングとシミュレーションが行われる。知識はモノではなく、その場で作り出されるコトとして捉えるべきであり、言語で伝えることは困難である。

重要なポイント
  • 知識は伝わるものではなく、主体が自らのリソースを用いて創発するもの
  • 知識の構築には経験から得た認知的リソースと環境のリソースを利用する
  • 知識はモノではなくコトとして捉えるべきで、言語で伝えるのは困難
理解度確認質問

1. 知識はどのようにして生まれるものか。
2. 知識の構築に利用されるリソースには何があるか。
3. なぜ知識はモノではなくコトとして捉えるべきなのか。

第3章 上達する──練習による認知的変化

練習による上達は直線的に進むのではなく、うねりを伴う。このうねりは複数のリソースが微細に異なる環境の中で相互作用することで創発し、次の飛躍のための土台となる。上達の背後では操作のマクロ化や並列化が起きており、実行環境を整えることも重要である。スランプは次の飛躍のための準備段階と捉えられる。

重要なポイント
  • 練習による上達はうねりを伴い、複数のリソースの相互作用で創発する
  • 上達の背後では操作のマクロ化や並列化が起き、実行環境の整備も重要
  • スランプは次の飛躍のための準備段階と捉えられる
理解度確認質問

1. 練習による上達はどのように進むか。
2. 上達の背後ではどのような変化が起きているか。
3. スランプはどのように捉えられるか。

第4章 育つ──発達による認知的変化

発達は段階的に進むとされているが、実際には複数の認知リソースが併存し、環境との相互作用によって揺らぎが生じ、そこから創発が生み出される。発達の過程で見られる揺らぎは、次の段階への準備状態を表している。発達には環境も大きく関わっており、子供は発達とともに環境との上手な付き合い方を身につけていく。

重要なポイント
  • 発達は複数の認知リソースが併存し、環境との相互作用で揺らぎ、創発が生まれる
  • 発達の過程の揺らぎは次の段階への準備状態を表す
  • 発達には環境が大きく関わり、子供は環境との付き合い方を身につける
理解度確認質問

1. 発達はどのようなプロセスを経て進むか。
2. 発達の過程で見られる揺らぎは何を表しているか。
3. 発達において環境はどのような役割を果たすか。

第5章 ひらめく──洞察による認知的変化

ひらめきは突然訪れるように見えるが、実際には多様で冗長な認知リソースとその間の競合による揺らぎが、環境と一体となって創発される。そのプロセスの大半は無意識的に進む。制約を逸脱した複数の認知リソースがうまく用いられた時にひらめきが生じる。ひらめきを得るには試行の多様性と適切な評価が重要であり、環境との相互作用も欠かせない。

重要なポイント
  • ひらめきは冗長な認知リソースの競合による揺らぎが環境と一体で創発される
  • プロセスの大半は無意識的で、制約を逸脱したリソースの利用でひらめきが生じる
  • ひらめきには試行の多様性と適切な評価、環境との相互作用が重要
理解度確認質問

1. ひらめきはどのようにして生まれるか。
2. ひらめきのプロセスはどの程度意識的に進むか。
3. ひらめきを得るために重要な3つの要素は何か。

第6章 教育をどう考えるか

学校教育由来の素朴な教育理論の多くは、認知的変化における創発を妨げる危険性がある。ポランニーの暗黙知の理論や伝統芸能の教育からは、近接項(兆候)ではなく遠隔項(原因)に働きかける重要性が示唆される。感染動機に基づく学習や教師と学習者の知的協力が創発的な学びを生み出す。創発的視点を取り込む教育への転換が求められる。

重要なポイント
  • 学校教育由来の素朴な教育理論は創発を妨げる危険性がある
  • 暗黙知の理論や伝統芸能の教育は、近接項でなく遠隔項に働きかける重要性を示す
  • 感染動機に基づく学習や教師と学習者の知的協力が創発的な学びを生む
  • 創発的視点を取り込む教育への転換が求められる
理解度確認質問

1. 学校教育由来の素朴な教育理論にはどのような問題があるか。
2. 暗黙知の理論や伝統芸能の教育からは何が示唆されるか。
3. どのような学習や協力が創発的な学びを生み出すか。

重要な概念

要素間の相互作用によって、個々の要素の性質からは予測できない新しい性質やパターンが生み出されること。本書では、認知的変化のメカニズムを創発の観点から捉えている。

  • 認知的リソース(cognitive resources)

個人が経験を通して獲得した知識や方略など、認知的な活動に利用可能な情報やツール。問題解決や学習において、複数の認知的リソースが同時に活性化され、協調や競合を通じて創発が生み出される。

  • 環境のリソース(environmental resources)

個人を取り巻く物理的・社会的環境に存在する情報やツールで、認知的活動を支援したり制約したりするもの。認知的リソースと環境のリソースの相互作用が、認知的変化に大きな影響を与える。

  • 揺らぎ(fluctuations)

認知的活動における多様性やばらつきのこと。複数のリソースが同時に活性化されることで生じる揺らぎが、既存の枠組みを超えた創発の源泉となる。

同じ構造の問題でも、提示される文脈によって異なる認知的リソースが活性化され、パフォーマンスが大きく変化すること。文脈依存性は、能力や知識の内在性や安定性に疑問を投げかける。

  • 近接項(proximal term)と遠隔項(distal term)

ポランニーの概念で、近接項は直接観察可能な事象や兆候、遠隔項はその背後にある原因や本質を指す。真の理解には、近接項から遠隔項へのプロジェクションが必要とされる。

要点

本書は、私たちの認知的変化のメカニズムを、創発の観点から捉え直そうとする試みである。従来の能力観や知識観を批判的に検討し、それらが内在的で安定的なものではなく、文脈に応じて多様に変化することを指摘する。

認知的変化の具体例として、練習による上達、発達、ひらめきを取り上げ、それらがいずれも複数の認知的リソースと環境のリソースの相互作用によって創発されることを論じる。その過程では、リソース間の協調や競合によって生じる揺らぎが重要な役割を果たす。

練習による上達は直線的に進むのではなく、うねりを伴う。そのうねりは次の飛躍のための土台となる。発達も段階的に進むのではなく、複数のリソースが併存し、揺らぎの中から創発が生み出される。ひらめきは突然訪れるように見えるが、実際には冗長なリソース間の競合が無意識のうちに進行した結果である。

これらの知見から、学校教育に由来する素朴な教育理論を批判し、創発的な学びを生み出すための視点を提示する。暗黙知の理論や伝統芸能の教育実践からは、表面的な兆候(近接項)ではなく、背後の本質(遠隔項)に働きかけることの重要性が示唆される。

本書は、私たちの認知や学習を、固定的な能力の発現ではなく、多様なリソースの動的な相互作用による創発として捉える新しい視点を提供している。この視点は、既存の枠組みに収まらない柔軟な発想を求められる現代社会において、教育のあり方を考える上で重要な示唆を与えてくれる。

書評

本書「私たちはどう学んでいるのか」は、人間の認知的変化のメカニズムを、創発の観点から捉え直すことを試みた意欲的な著作である。従来の能力観や知識観を批判的に検討し、それらが内在的で安定的なものではなく、文脈に応じて多様に変化することを説得力を持って論じている。

特に、練習による上達、発達、ひらめきといった具体的な認知的変化の事例を取り上げ、それらがいずれも複数の認知的リソースと環境のリソースの相互作用によって創発されるという主張は、示唆に富むものである。著者は、認知科学発達心理学の最新の知見を踏まえつつ、私たちの日常的な経験にも即した形で論を展開しており、読者の理解を助ける工夫が随所に見られる。

本書の優れた点の一つは、認知的変化におけるリソース間の揺らぎの重要性を明らかにしたことである。上達や発達、ひらめきのプロセスでは、多様なリソースが協調したり競合したりすることで生じる揺らぎが、既存の枠組みを超えた創発を生み出すという指摘は、従来の理解を大きく更新するものであり、今後の研究の方向性を示唆している。

また、本書は学校教育に由来する素朴な教育理論を批判し、創発的な学びを生み出すための新たな視点を提示している点でも意義深い。暗黙知の理論や伝統芸能の教育実践から学ぶべき点を明らかにし、表面的な兆候ではなく背後の本質に働きかけることの重要性を説得的に論じている。

一方で、本書の議論にはいくつかの課題もあるように思われる。例えば、創発のメカニズムについては、より詳細な検討が必要であろう。リソース間の相互作用がどのように創発を生み出すのか、その過程にはどのような条件が関与しているのかなど、踏み込んだ議論が求められる。また、本書で提示された知見を実際の教育実践にどう活かすかについても、より具体的な提案が欲しいところである。

しかしながら、これらの課題は本書の価値を大きく損なうものではない。むしろ、著者が提示した創発の視点は、今後の認知研究や教育実践に新たな可能性を開くものであり、多くの読者に刺激を与えずにはおかないだろう。固定的な能力観に基づく従来の教育観を転換し、人間の柔軟な認知的変化の可能性を最大限に引き出すための教育のあり方を探求する上で、本書は重要な指針を与えてくれる。

教育に携わる者はもちろん、人間の心の働きに関心を持つ全ての人にとって、本書は一読の価値がある。著者の提示した知見と視点を手がかりに、私たち一人ひとりが、自らの認知と学習のあり方を問い直してみることが期待される。